2026-08-07

プロダクトマネージャーの戦績は「売却」で数えるのか「生存」で数えるのか——マスクの X 製品責任者は二つのヒットを売り、どちらも閉鎖された

「バトンを渡す時が来た。自分を本来の姿、つまり一人の投稿者へと降格させる。」

8 月 5 日、X の製品責任者を退いたニキータ・ビア本人の言葉である。2025 年 7 月に就任し、一年と一か月務め、以後は顧問に回る。

数億人が使う製品を預かっていた人間が、自分の本来の姿は投稿することだと言う。自嘲として聞くこともできるし、きわめて正直な自己認識として聞くこともできる。

履歴は硬い。ただし硬いのは特定の一点においてだ

ビアはこれまでに二つの製品を作っている。

一つは tbh、匿名投票アプリで、アメリカの十代のあいだで爆発し、2017 年に Facebook へ売却された。もう一つは Gas、匿名で人を褒めるアプリで、同じく十代向け、同じく爆発し、2023 年に Discord へ売却された。

二度の起業、二度の exit。この戦績はシリコンバレーでも十分に立つ。一度すら達成できない人のほうが多い。

だが TechCrunch は退任を報じる際に一行足した。この二つのアプリはどちらも後に閉鎖された、と。

tbh は Facebook に入って閉じられた。Gas は Discord に入って閉じられた。彼が作ったものは、今日ひとつも残っていない。

売ることと生き延びることは、別々の目的関数である

粗探しをしているのではない。彼の OS が何に合わせて較正されているかという話だ。

十代向けソーシャルには確立した打ち方がある。校内で拡散する仕組みを見つけ、最速で火をつけ、熱があるうちに売る。この打ち方はどの工程も「exit」に最適化されている。成長曲線は急でなければならず、ユーザーは買い手が理解できる層に集中していなければならず、製品そのものに二年目の物語は要らない。

むしろ二年目を考えることを妨げる。二年目を考えるなら継続率、収益化、コンテンツ統治をやることになり、そのどれもが買い手に見せる曲線を寝かせてしまうからだ。

この目的関数で採点するなら、ビアは二度とも満点である。製品が閉じられたことは彼の KPI ではない。彼の KPI は成約の瞬間に締められている。

問題は、この OS がスタートアップの外に出た途端、採点基準が入れ替わることだ。

一年で新製品 30 本、この数字自体が答えである

X での一年について、ビア本人の総括は、30 の新製品を出し、同時に「公共広場の健全性を守った」というものだ。X 側の説明では、フィード、Android クライアント、DM、通知を作り直し、マスクが 2024 年に約束したまま実現していなかった X Money を出した。

X Money は難物で、出したのは本物の実力である。フィードと DM の作り直しもそうだ。

だが「一年で新製品 30 本」という数字は、すでに数億人が使うプラットフォームでは少し奇妙だ。

スタートアップが一年に 30 個試すのは普通である。拡散する仕組みを探しているのだから、失敗の費用はほぼゼロだ。成熟したプラットフォームが一年に 30 本出すというのは、その大半が本当には育てられていないということでもある。プラットフォーム製品の難所は新機能を思いつくことではない。ひとつの機能に最初の四半期を生き延びさせ、習慣の中に入れ、次の四半期の新機能に押し出されないようにすることだ。

広く網を張ってヒットを探すのと、一つのものを習慣に育てるのは、別の手仕事である。 彼が前者の一流であることは疑いない。

ではプロダクトマネージャーの履歴は何で数えるべきか

このニュースを見て本当に考えたのはそこだ。

業界の既定の数え方は exit である。何社売ったか、いくらで売ったか、誰に買われたか。理屈は通っている。exit は検証できる。金額があり、発表があり、日付がある。「継続率」のようにどうとでも語れるものではない。

ただし副作用がひとつある。「製品が生き延びたか」を評価から外してしまう。

exit で数えれば、ビアは二戦二勝だ。生存で数えれば、二戦二敗である。

どちらの数え方も完全ではない。生存だけで数えれば多くの人が冤罪を被る。製品が閉じられる理由は創業者と無関係なことが多い。大企業が買うのは人と技術であって、そのアプリを永久に開けておくためではない。tbh と Gas が閉じられた責任は主に Facebook と Discord にあり、ビアにはない。

しかし exit だけで数えると、居心地の悪い職業の形が生まれる。実に立派な履歴を持ちながら、その人が作ったものが今日ひとつも存在しない、という形だ。

答えは本人が出している

ビアは次のヒットを作りに行くとも、Lightspeed に戻って投資をするとも言わなかった。言ったのは、投稿に戻る、である。

この一行はどんな振り返りより正直だ。 彼は自分が最も得意で、最も楽しいことを知っている。いまこの瞬間の注意の隙間を掴み、それを一度の流行に変えること。投稿とヒットアプリづくりは同じ筋肉を使う。

数億人が毎日開くプラットフォームを回すのは、別の筋肉である。

残っている問い

X の製品責任者はいま三人に分割されている。ベンジ・テイラーがデザイン、ジョナ・カッツが iOS、ムリドゥル・シンハイが製品組織全体だ。一人分の仕事を三人に割るという配置自体が何かを語っている。そもそも一人が背負うべき役割ではなかったのか、あるいは X が別の打ち方に切り替えたいのか。

プロダクトマネージャーの履歴を何で数えるべきかについて、私に答えはない。ただ、これからは「連続起業家、二度の exit 成功」という一行を見るたびに、もうひとつ訊くようになるとは思う。その二つの製品は、いまも動いているのかと。

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